第20回 ちょっと別件、だけど表明……『新官能』!!

『新官能』って何? ―官能倶楽部「悦」が考えていること―

《男女の性愛を読みどころのひとつとするが、同時代の物語としての面白さに溢れる大人のエンタメ小説》

というのが、『新官能』のコンセプトです。
官能小説とは本来、人間の五感をフル動員して、業とも言える根源的な人間の欲望を紐解く物語としてありました。古くは井原西鶴、永井荷風、谷崎潤一郎、三島由紀夫、吉行淳之介など、多くの文豪が、官能小説を手がけてきました。官能小説には、数多くの文芸的要素が詰まっていて、表現の仕方や言葉遣い一つで想像力をたくましくさせ、実に滑稽な人間に思い至りかつ興奮させるという、たいへん魅力的なジャンルであります。

一方で、こうした物語の要素のひとつ、情愛描写の技巧にのみフォーカスして、刹那的な快楽特化型の読者を醸成していこうという動きが1980年代半ば以降、顕著になり、自然とそれはポルノ小説に近づいていきました。
そのフェティッシュさをもって、AVが一般化するまでは、確かに多くの読者を獲得・拡大しつづけ、一大ジャンルとして隆盛を極めてきたことは、もはや出版界の常識でもあります。

ここにきて地殻変動が起こっています。簡単に言うと、ひとつは読者の高齢化、もうひとつはポルノ映像のWEB視聴による無料化、です。それらが引き起こしてきた様々な影響が、思いのほか大きい。

情愛シーン表現の優劣だけではないものへの転換がここへきて迫られているように思えます。

実はかつて情愛シーン表現の優劣によらない官能的小説が広く読まれた時期がありました。いうまでもなく、団鬼六、千草忠夫、らによる「暗黒文学」。阿部牧夫や、清水一行、豊田行二、らによる「企業小説」。勝目梓や、西村寿行、大藪晴彦、らによる「ハードバイオレンス」などがそうです。

これらの作家による作品は、官能的シーンもさることながら、同時代の世情、不安、不満を巧みにとらえていました。その過程で必要となる官能的シーンを盛り込み、読者のカタルシスをより深くDNAレベルで引き出していた、と言っても過言ではありません。

だから、圧倒的な大衆文学として成立、認知されていました。

性愛描写の技巧の優劣に走ってきた歴史を踏まえ、先人たちが切り拓いた独自の物語形態を、ふたたび取り戻すことが官能小説の再興に繋がるのではないか。その試みとして『新官能』はあります。あえて言えば、決して「新」ではなく、近年の官能小説が忘れかけていた「同時代」の問題を、小説機構の中に取り込もうとするものです。身近なところに潜むテーマを、エンターテイメントの形を強く意識しながら浮彫にする、小説です。

ポルノ小説とはまた違った味わいのこの物語を、ぜひとも、新刊文芸として読者に届けたい、と考えるところです。ご寛容をよろしくお願い申し上げます。

GOT官能倶楽部「悦」編集部(=大航海 Aubebooks.com)
2023.03.13 創刊2点

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