第2回 EL専門書店員の野望ブログ


サイト名のaubeとはフランス語で夜明け、明け方という意味です。気がつけば朝方まで読んでしまう面白さ抜群の本、夜明けまで戯れ愛し合う男女の悦び、そんな情熱と艶がある言葉なのではないかと思えました。

分不相応にも、不景気と言われて久しい出版界に、明けない夜はないことの願いも少しばかり含んでいます。

いま実店舗や電子書店に限らず、BLやTLは描かれる魅力的なキャラクターや美しい色使いの表紙が揃っているせいか、堂々と、しかも明るく読者にアピールするコーナーを占めています。

諸説ありますが、女性読者の性的ファンタジーを満たすコミックや小説としてBLやTLはすでに認知され、歴史的に少女マンガやライトノベルから発展してきたことにその源流を見るなら、かつて流行したレディース・コミックのような劇画調のある種の重さを感じる表紙になるはずもなく、物語の途中で、ヒーローとヒロインの感情のもつれた起伏をつけながら、最後に成就する「純愛」がテーマになるので、日の当たる場所に置かれて当然だと思います。

一方で、かつて「肉体小説」と呼ばれ、いつのころからか「官能小説」と括られ、主に男性読者の性的ファンタジーを刺激するジャンルは実店舗ではひっそりと置かれることが多く、電子書店では「官能小説」というカテゴリーそのものさえ見いだせないことすらあります。

BLやTLはなぜか必然的に、いや巧妙に、男性読者の性的ファンタジーを満たす官能コミックや官能小説よりも、明るく日の当たる場所を得ている気がしてなりません。

BLやTLの作者が、女性の無意識の欲望をつねに先取りし、その表現技法が官能よりも考え抜かれていたからなのでしょうか。少女マンガ隆盛期の中に、それらのジャンルの萌芽を見出すなら、言葉は乱暴ですが手を変え、品を変え、意図的に変容を遂げていったとすら言えます。

官能という言葉で括られてきた男性読者の性的ファンタジーを満たすためのジャンルは十年一日のごとしだったのでしょうか。いや、そんなことはない、と思うのです。

紐解いてみれば、終戦直後のカストリ雑誌と呼ばれた時代に量産された作品とくらべて、「奇譚クラブ」や「裏窓」に発表された作品の一部はあきらかに市民権を得ていき、見事に男性の無意識の欲望を掴んでいます。

なぜいま、これだけ日の当たるジャンルと日陰のジャンルに分かれて見えてしまうのでしょう。男女の悦楽、劣情のポイントに大きな変化、スピード感の違いがあり、その差がジャンルの名称や表紙、タイトルに現れた、ということなのでしょうか。

臨機応変に時代を捉えて、マーケットにより敏感に、大胆に適応していったのがBLやTLであり、少々の変更は加えながらもかたくなに、ジャンルの名称や見せ方を貫いてきたのが官能なのでしょうか。

実は官能も世の中に敏感に反応した物語を紡いできている、と AubeBooks.com は考えています。そして、いま、ある程度の恋愛経験、知識を重ねた男女には、視点の差こそあれ書かれる性的ファンタジーには、明確な男女差を感じさせないのではないかとさえ考えています。

ヒーローとヒロインの設定、立ち位置は、多くの作品がその時代性を捉えてきました。淑女を奴隷に引きずり下ろす肉食系から、近親による癒し系、隣のお姉さんの手ほどきによってヒーローが性的に開花させられる草食系まで、時代に敏感に寄り添った作品の豊穣さはどうでしょう。その時代の男女関係、そこであらたに生み出される欲望の裏返しなのではないでしょうか。

例えば、記号としてタイトルに必須とされてきた、ヒロインの属性――人妻、淑女、未亡人、OL、お姉さんなどなど――が必ずしもヒットを約束するものではなくなり、むしろ女性でも手に取れるタイトル、それはどういう物語なのかをもうひとつ深いところで象徴させるタイトルであり表紙が話題となることも多くなってきたように思います。さらに価値錯乱の時代、フェティッシュ、マニアックな劣情の喚起の仕掛けも無視できません。

どうやら、BLやTLと異なり、長い時間「官能小説」という言葉で括られてきたジャンルは、その内容も表現も大きく変容を遂げてきているにもかかわらず、すでに時代にマッチしない言葉になってしまったのかもしれない、という思いに至るのです。

曲解を承知の上で『源氏物語』にまでさかのぼれば、ある種の禁忌を犯すことで、男性や女性の性的ファンタジーを刺激することを第一の命題としてきた「官能小説」は、男女関係の変節を深いところで表現する独特のジャンルにまですでに昇華しているのではないか、そう考えてみました。

「エロスの概念は今後も様々な進化を遂げるだろう。もはや私はそれを嘆こうとは思わない。そこにいつの時代にも普遍的に存在するものは己の快楽を追求することに他ならない。人間は快楽を求めているときが本然たる姿であって、生きている証だと思っている」

この言葉はかってある官能文芸誌に、生前の団鬼六氏が寄せられた言葉の一部です。

そう、きっとエロスの概念は今後も、時とともに変わっていくものだと思います。しかし、形を変え、表現を変え、趣向を変えることはありながら、それでも、なお、人は己の快楽を追求し続けるでしょう。なにがエロスか、なにが禁忌かは、刻々と変わっていくものだと思います。そこに、つねに新しいエロスが紡がれていくのではないか、と思います。

もともと電子の世界では、次々と新作が発表されていきます。それは、作品発表の機会が増えることを意味しますが、一方で消費のスピードが速く、すぐに次に取って代わられてしまうことも意味します。

売れ筋のジャンル、萌えるツボ、そうした暗黙の「了解事項」も、次の瞬間、消えていくものです。だからこそ、一切の制約なしに、本当に作者が書きたくて書かれた作品を、このサイトは追求していこうと考えています。実験作、野心作が出てこそ、ジャンルは活性化すると思います。

情熱的なシーンの書き込み、ヒーローとヒロインの関係の禁忌、あるいは快楽の詳細な書き様だけではなく、作者の持つ「どうしようもない業」に寄り添う登場人物たちの物語があってもいいのではないでしょうか。

「どうしようもない業」は極限、極度、過激、極端な発露をときに求めるものです。

マニアック、フェティッシュ、偏執、執着、熱狂……EXTREME LOVEEL。このサイトではこうした要素を孕む作品を、掘り起し、書き下ろし、少しずつでも紹介したいと考えました。当面、他サイトのように次から次へ、作品が発表されるわけではありません。むしろ、一作品をじっくり愉しむサイトとして歩み始めます。

いままでの官能小説、BL、TLに、飽き足らなくなってきた方、すでにそこに描かれる劣情に麻痺してきた方、もっとその先を求め始めた方へ。つまり、数ある電子書籍サイトの中から、男女の枠を超えて、EL専門書店 AubeBooks.com を覗いてもらえれば大変、嬉しいです。

EL専門書店 AubeBooks.com 店長

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